コムロ ヨウスケ

プロフィール

1978年東京生まれ。幼い頃から絵に親しみ、2004年にThe Art Institute of Philadelphia グラフィックデザイン学科卒業後、グラフィックデザイナーとして活動を始める。2014年にフリーのグラフィックデザイナー業と並行してアート活動を開始。物理学や仏教に親しむ中で得た、「本質を追求していくと、真実は単純なストラクチャーに行き当たる」という仮説をベースに、世界の万象を形作る構造を理解し、シンプルかつ明快に表現していくことを目的に制作を続けている。

インタビュー

あなたにとって、美術 / 制作することとは何でしょうか。

道楽です。幼い頃から好きで絵を描いてきましたから、おそらく一生涯続く道楽となるでしょう。ここまで来たら人生をかけて道楽を突き詰めようと思います。道楽に生きて、道楽に死にます。

いつから美術に興味を持たれたのでしょうか。

2011年頃です。デザイナーとして独立した直後で、仕事以外の活動もしてみたいと思ったいたところに出会ったのが現代アートでした。
巨大でクレイジーかつ人間の業が凝縮されているような世界。そんな美と醜をまとめて飲み込むような現代アートというプラットホームに大変興味を持ちました。そして表現手法に縛りがないので、僕のような美術畑を歩いてきていない人間も参加可能なところも魅力でした。

デザイナーとして働く傍ら、誰にも干渉されず、好きに物づくりをしたいとかつてから考えていましたので、2年間の試行錯誤と研究期間を経て、表現の総合格闘技のような世界に足を踏み入れた次第です。

アートに限らず影響を受けたクリエイターはいますか。

小さい頃はマンガ家になりたいと思っていましたので、入り口は手塚治虫で、一番影響を受けたのは鳥山明です。ビビッドな色使いやフラットな作風は、当時好きだったマンガやイラストが下敷きにあると思います。
大人になってからは、クリエイターや作品そのものよりも、自然現象や人類が構築してきたロジックに影響を受けており、中でも物理学や生命科学、仏教の理論から得たアイデアなりコンセプトを、作品作りに用いることが多いです。なので、クリエイターよりも、学者の方々の理論なり、考え方なりに多くの影響を受けていると思います。誰であろうと、僕は自分から見て「面白い考え」を持っている人が好きです。例えその考えが世間に受け入れられていなくとも。

転機となった作品があれば教えてください。

実質的なデビュー作である「empty」というコンセプトの作品群です。この作品ができた時に、アーティストとして世に出ようと決めました。今までいろんなタイプの作品を作ってきましたが、その中でも自分が表現したいエッセンスが凝縮されていて、今も一番気に入っているシリーズです。
世界のあらゆるものを取り払った時、初めて世界がありありと見えてくる。虚無性を突き詰めた先にある実性といいますか、仏教の色即是空的な世界観を、ミニマムに表現できたと思います。

  • コムロ ヨウスケ
今後、作家としてどのような活動の展開を考えていらっしゃいますか。
今後の展望や今挑戦されていることなどありましたら、お聞かせください。

21世紀は人類史を変えるような激動の時代になると思っています。そんな液体のように変化する時代に生まれたからこそ、自分も液体のように変化して生きたいと思っている次第です。そのためには、今後の展望や目標のような、固形物にとらわれることはしたくありません。今はアート作品を作っていますが、今後は文章や写真、または音楽も始めるかもしれません。生き物は内的意識と外的環境の接点が表出された結果として存在していますので、その時々を自分の目で捉え、考え、自分なりに表現していくことが肝で、その出力先がアートなのかどうかすら、どうでもいい話です。

21世紀という液体的な変化の時代の中で、主体的に生きることそのものが挑戦で、それは僕に限った話ではなく、現代を生きる人類に課されている宿命なのかもしれません。まさに「現代アート」ですね。とにかく誰に何と言われようと道楽を止めないこと。何が「楽しい」かがそれぞれ違う以上、道楽こそがそれぞれに与えられた人生の「役割」だと思います。それを全うできるかどうか、とりあえずがんばります。